夏山周久のジークフリード

夏山周久振付けの「白鳥の湖三幕」を観た。ジークフリードも夏山氏。演出はドットバルドとスペインの悪の一団など一連のつながりが面白く無駄が無く本当に素晴らしいものだった。今日の舞台はいわゆるバレエ教室の発表会だ。必ずしも一流どころが脇を固めているわけではない。子供も多数出ている。それなのに白鳥湖全幕を観た程の満足感を得た良い三幕だった。

御歳・・(私より半周り程上)の男性がジークフリードを踊る。普通ならどうなる事かと思ってしまう。
バレエは能や歌舞伎とは違ってハッキリとした運動能力が問われる。いわゆる内側の力(へそ下三寸・丹田)の強さだけではない、眼で見てわかる足腰の強さ、女性をリフトする腕力、そして観客を魅了するジャンプ力、若い躍動感。男性舞踊手はどう考えても35歳くらいでピークを迎えるはずだ。それなのにピークを遥かに越えたはずの夏山氏の舞台に深い感動を覚えた。

出て来た瞬間に王室の広間を其の眼で一蹴し素早く母親の王妃を認めて駆け寄るしぐさ。そこから既に婚期を迎えた年頃の王子だと言う事が、分かる。衣装や舞台装置なしでも 何の演目か分からなくても・・。 
夏山氏が舞台に登場した瞬間に 豪華な舞台装置などすべての空間が 夏山氏によって再構築されていくようだ。またそれぞれの役柄の登場人物も夏山氏により自らの役柄を改めて思い知らされているようにも感じられる。 そしてアダジオだ。音楽を自在に操り目をつぶっても相手の存在を認識できるように 女性を操っている。無駄な動きは皆無だ。ゴットハンドと呼ばれる氏の腕が女性のウエストをくるくると回す。其の後に続くのは男性舞踊手の見せ場でもあるバリエーション。音楽を絶妙に動かすように空間を駆け巡る。ジャンプ力、回転の力など往年の切れ味は無いかもしれないが、「若さのスーパーリアリズム」がある。空間を躍動する若者の鼓動が伝わってくる。こんな素晴らしい事があるだろうか! そしてコーダ しっかりのびた美しい足先は一流の証だ。空中での美しさは素晴らしいの一言・・・

世阿弥は風姿花伝で7段階に演者の人生を語っています。50歳を過ぎていたら「老年期」で7段階の最後です。そこで世阿弥は父の事を思ってか「この歳になると動かないのが年寄りの心得で、それでも名人は花が残る」というように著している。この事は無駄の無い夏山氏の動きに通じるものがある。すぐれた世界(虚構の)の作り様は東西どこでも同じ境地があるのを確信した。
ただバレエの場合いくら名人とはいえ 動かないわけにはいかない。夏山氏のずば抜けた運動能力の高さ。強靭な肉体は奇跡としか言いようが無い。世界を探してもこれだけ踊れる四捨五入したら60歳の舞踊手は皆無ではないか?それもまた華々しくも地道な舞踊生活の賜物であろう。 バレエでは名人の域に達する前に其のダンサー人生が終焉を迎えるように思える。夏山氏の場合名人の域にありながらまだ白タイツが似合う希有な存在だ。 様々な名人と重なる。女を演じる歌舞伎役者や16才のおせんを演じる山田五十鈴のような・・。

しかし半世紀以上生きて舞台に立っている方は 先日インプロで共に踊った角正之氏や70才を過ぎて今なお創作に意欲を燃やし踊り続ける若松美黄先生 そして夏山氏 本当に それぞれのコンセプトのダンスを見事にそれぞれの目指す境地まで昇華させているように思える。

by saitohdance1 | 2009-03-01 23:37 | ダンス

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